取り組みの事例
段取り替えの手順を、空間ごと残す
紙の手順書が苦手にしているのは「どこに何があるか」です。段取り替えや治具のセットは、手順そのものより、その部品が設備のどこに付いているかが分かりにくい。そこで、設備のまわりを360°で撮って歩ける状態にし、その中の「この場所」に作業の動画を結びつけます。
- 全工程
- 19工程
- 初回の人間の工程
- 7工程
- 2回目以降の人間の工程
- 5工程
STEP 1
撮るものを決める
何を、どこから撮るかを先に決める
3工程
紙の手順書が苦手にしている事があります。「どこに何があるか」です。
段取り替えや治具のセットは、手順そのものより「その部品がどこに付いているか」「どちら側から手を入れるか」が分かりにくい。文章で書けば書くほど長くなり、写真を並べても、それが設備のどのあたりなのかが分からなくなります。
そこで、手順を空間ごと残します。設備のまわりを360°で撮って歩ける状態にし、その中の「この場所」に作業の動画を結びつける。見る人は、聞ける人がいない時間帯でも、実際に立って見ているのと同じ順で手順をたどれます。
まずは、何をどこから撮るかを決めるところから始めましょう。
対象の設備を選ぶ
最初の1台を決めます。
選ぶ基準は「新人に説明するのが、いちばん難しい設備」です。手順が長い設備より、口で説明しても伝わらない設備の方が向いています。「ここを見ればいい」と指させない作業ほど、空間ごと残す価値があります。
これは人間の判断です。どの設備が教えるのに骨が折れるかは、現場の人がいちばんよく知っています。
撮るべき工程の一覧を作る
どの作業を、どの順で撮るかをAIが用意します。
ここでも大事なのは、背景と目的をAIに渡す事です。「この設備の段取り替えを、入って半年の人に伝えたい」という前提があれば、どこで区切るべきか、何を撮り落とすと伝わらなくなるかを、AIが組み立てられます。
出てきた一覧に、現場の人が補足と修正を加えて確定させます。「この工程は前後がつながっているから分けない方がいい」といった判断は、やはり人間の側にあります。
立ち位置の一覧を作る
設備のまわりのどこに立って撮るかを、AIが割り出します。
360°カメラは、その場に立って一度シャッターを切れば周囲が全部写ります。ですから「どの角度から撮るか」を悩む必要はありません。考えるのは「どこに立つか」だけです。
ここで一つ、後の工程に効いてくる条件があります。立ち位置は、近すぎない方がよいという事です。同じ場所の近くで何枚も撮るより、離れた場所を増やす方が、歩ける範囲が広がります。この見立てをAIに任せておくと、現場では一覧の通りに立って撮るだけになります。
STEP 2
空間を撮る
設備のまわりを360°で撮り、歩ける形にする
5工程
ここからが、この取り組みの土台です。
やる事は「撮る」だけですが、撮ったあとに機械が黙ってやる仕事がいくつも続きます。その並びを知っておくと、現場で何に気をつければよいかが分かります。
360°カメラで設備のまわりを撮る
立ち位置の一覧に沿って、その場に立って撮ります。
構図を考える必要はありません。360°カメラは周囲を丸ごと写すので、向きを気にせず、ただ立って撮れば済みます。
気をつけるのは明るさくらいです。設備の陰になって真っ暗な場所があると、後で見る人にも真っ暗にしか見えません。普段作業する時と同じ明るさで撮れば十分です。
撮影者と三脚の写り込みを消す
周囲を丸ごと写すという事は、撮っている自分も必ず写るという事です。
この写り込みを機械が見つけて消します。人物や三脚の形を認識して、その部分を塗りつぶす技術です。
こういう仕事こそ機械に向いています。撮った枚数だけ、同じ処理を同じ精度で繰り返す。人がやれば単調で、しかも見落としが出る作業です。
写真から立ち位置と向きを割り出す
ここが、この取り組みの中でいちばん見えにくく、いちばん効いている工程です。
複数の写真に同じ物が写っていれば、その重なり方から「撮った人がどこに立って、どちらを向いていたか」を計算できます。測量の考え方を写真に当てはめる技術で、専用の機材も、事前の目印も要りません。撮った写真だけから、立ち位置が空間の座標として出てきます。
現場では、ただ立って撮っただけです。その写真の束から、後の工程が使える「地図」が起こされる事になります。
立ち位置をつないで歩ける導線をつくる
割り出した立ち位置をもとに、「ここからあそこへ移動できる」という結び付けを自動で引きます。
この種の空間ツアーは、普通は人が手作業で結線します。この写真とこの写真をつなぐ、この方向をクリックしたらあちらへ飛ぶ——という指定を、写真の数だけ手で入れていく作業です。立ち位置が増えるほど、組み合わせは急に増えます。
前の工程で立ち位置が座標として出ているので、その手作業が丸ごと要らなくなります。どの立ち位置とどの立ち位置が近いかは計算で分かりますし、向きも分かっているので、矢印を置くべき方角も自動で決まります。
手作業が消える事が、この工程の価値です。
立体データを作る
同じ写真から、画面上で視点を自由に動かせる立体データを組みます。
写真をたくさん与えると、そこに写っている空間そのものを組み上げる技術があります。出来上がるのは、3DCADのように自由に視点を動かして見られるデータです。
用途は手順書だけではありません。設備のまわりの状態がそのまま残るので、後から設備メンテナンスの検討にも、安全衛生の確認にも使えます。一度撮れば、社内の情報資産として残り続けます。
STEP 3
作業を撮る
作業者の目線で、工程を短く撮る
2工程
空間ができたら、次はそこで行われる作業です。
ここで撮るのは、離れた場所から全体を写した動画ではありません。作業者の目線そのものです。
作業者にカメラを付けて工程を撮る
作業者にカメラを装着して、いつも通りに作業してもらいます。
こうすると、手元がそのまま映ります。「この角度から手を入れる」「ここを押さえながら回す」といった、言葉にすると長くなる事が、映像では一目で伝わります。
撮影のために作業を止める必要はありません。段取り替えは毎日どこかで発生しているので、その一回をそのまま撮らせてもらえば済みます。
要点ごとに30秒〜1分へ切り分ける
長い動画は、それだけでは使われません。知りたい事が5分目にあるのか20分目にあるのかが分からないからです。
そこで、話の区切りと手の動きの切れ目を見て、AIが短いかたまりに分けます。一つの動画に一つの要点、というくらいの長さが目安です。
この切り分けがあるから、後の工程で「この治具の取り外し」という一点に飛べます。撮る側は、区切りを意識せずに通しで撮って構いません。
STEP 4
空間に結びつける
撮った作業を、空間のその場所に置く
2工程
撮った作業を、空間のその場所に置きます。
この段が、紙の手順書との決定的な違いになります。手順が「文書のどこか」ではなく「設備のこの位置」に貼り付くという事です。
空間の該当箇所に動画と注意書きを置く
画面の中で設備を見ながら、「この治具」という場所を指して、動画と気をつける事を添えます。
ここは人間の工程です。どの動画をどこに結びつけるかは、作業の中身を知っている人にしか決められません。機械には、映っている物の形は分かっても、それが段取り替えのどの場面に当たるかまでは分かりません。
注意書きも、この時に一緒に添えます。「ここは締めすぎると歪む」といった、ベテランが口で言っている事です。文章にすると数行ですが、置く場所が決まっているだけで、伝わり方がまるで変わります。
クリックで開ける形にして保存する
置いた印が、誰の画面でも同じ場所に出る状態になります。ここは自動処理の担当です。
大事なのは、人が置いた印と、機械が作った空間データを、別の物として分けて持つ事です。空間データは撮り直せば作り直せますが、置いた印と注意書きは人が作ったものなので、作り直せません。ですから、空間を作り直しても印は消えない、という約束を仕組みの側に持たせておきます。
STEP 5
手順書と検索をつくる
話した言葉から手順書を作り、質問できる形にする
5工程
ここまでで、空間と動画は揃いました。最後に、言葉の側を整えます。
動画があれば十分に思えるかもしれません。しかし「あの作業、どうやるんだったか」を確かめたい人にとって、一度動画を最初から見るのは重い。文字で読めて、聞けば返ってくる形が要ります。
手順書の型を決める
手順書に何を書くかを、最初に一度だけ決めます。
- この工程の目的は何か
- 使う工具と治具は何か
- どういう順で手を動かすか
- どこで失敗しやすいか
- 確認するポイントはどこか
この項目立てが、撮る工程の一覧とも、動画の切り分けともつながります。聞く事と、撮る事と、書く事を同じ型で揃えておくと、工程の間で情報が落ちません。
決めるのは最初の一度だけです。2台目からは、同じ型に沿って中身が入っていきます。
動画の音声を文字にする
作業中に話した言葉が、そのまま文字になります。ここは自動処理の担当です。
現場の音は、会議室の録音とは違います。機械が動いている音、離れた場所からの声、専門用語。そのままでは間違いも出ますから、この工程の出口は「完成した文章」ではなく「人が直す前の下書き」です。
重要なのは、動画を入れれば文字起こしまで自動で進み、次の人間の工程へ回ってくる形にしておく事です。ソフトを立ち上げて読み込ませて保存してファイル名を付けて、という往復が無くなります。
手順書のたたき台を作る
文字起こしを、決めた型に沿った手順書の形にAIが整えます。
話し言葉は、そのままでは手順書になりません。前後が入れ替わっていたり、「これ」「それ」で済ませていたり、途中で別の話に飛んだりします。それを、型の項目に沿って並べ直すのがこの工程です。
このとき、動画のどの部分から来た文かが分かるようにしておきます。後で「この手順の元の映像を見たい」となった時に、すぐ戻れるようにするためです。
手順書に赤入れする
AIが整えた手順書を、人間が画面上で読んで直します。
ここを省いてはいけません。AIの文章は、読むと「それらしく」できています。しかし、話し手が言っていない事が混ざったり、数値が少しずれたり、現場では使わない言い回しになったりする事があります。
見るべきなのは、うまい表現かどうかではなく、事実として正しいかどうかです。特に段取り替えでは、締め付けの順序や向きが一つ違えば設備を傷めます。このような箇所は、必ずベテランの目を通します。
質問すれば該当箇所が返る形に整える
「この治具の外し方は」と聞けば、その場面の動画と手順が返ってくる状態にします。ここは自動処理の担当です。
やっているのは、手順書と動画の切れ端を、言葉で引ける形に並べ直す事です。似た意味の言葉で書かれていても引けるようにしておくので、現場の人が使う言い方と、手順書に書かれた言い方が違っても届きます。
探し物の時間は、思っているより長く積み上がります。「誰かに聞く」しかなかった状態から、「聞けば返ってくる」状態へ移すのが、この工程です。
STEP 6
現場で使う
社内で見られるようにして、使ってもらう
2工程
作って終わりではありません。使われて、足りない所が分かって、初めて次に進めます。
社内だけが見られる形で配る
パソコンでもスマートフォンでもタブレットでも、同じ物が開ける状態にします。社内からだけ見られるようにして、外には出しません。
現場で使う物なので、機械の前で片手で開ける事が条件になります。専用の機器も、事前の設定も要らない形にしておきます。
現場で使ってもらい、感想を聞く
実際に段取り替えをする人に使ってもらいます。
聞きたいのは「良かったかどうか」ではありません。どこで迷ったか、どの説明が足りなかったか、どこを見たかったのに無かったか、です。
ここで出てきた事は、撮り直しではなく、注意書きの追加で埋まる事がほとんどです。空間と動画は残っているので、足りない所に印を足していけば厚みが増していきます。
そして、同じ素材のまま字幕を差し替えれば、外国人材にもそのまま使えます。撮り直しは要りません。
残ったもの
設備・製品が1件増えるたびに、
人がやるのはこの5つだけ。
人の手が要るのは19工程のうち7工程。うち2工程は最初の1回だけの準備なので、設備が1台増えるたびに人がやるのは5工程だけ。
ご相談
自社の設備・製品でも同じことができるか、確かめませんか。
扱う点数や素材の状態を伺えば、どこまで自動化できるかをお伝えできます。